![]() |
1. ひえつき節(宮崎) 2. こきりこ節(富山) 3. 竹田の子守唄・元唄(京都) 4. てぃんさぐぬ花(沖縄) 5. ホーハイ節(青森) 6. 祖谷の粉ひき唄(徳島) 7. ハララキ(北海道) 8. 音戸の舟唄(広島) 2004年4月21日発売(佳音舎) 新価格¥1,800(税込) |
「私、民謡を歌おうと思うんだ」
長い沈黙の時を終えて再び歌の世界へ歩き出そうとしていた浜田真実さんが、その静かな、けれど深く人の心に届く声でこう言ったのは、2003年春のことでした。
めったなことでは鳥肌など立てない私ですが、その時ばかりは、さぁっと両腕が総毛だったのを憶えています。
彼女が歌おうとしているのが、金ぴかの着物を着た歌手によって舞台上で歌われる「民謡」ではなく、この国の村で山で海で森で、歌い継がれ、そして今、忘れられようとしている私たち日本人の民俗音楽・民謡だとすぐにわかったからです。
浜田真実という歌い手は、今まで誰も表現したことのない民謡の新しい美しさを見せてくれるに違いないと、私は直感しました。新しい器に入れ新しいリボンをかけて、どうぞ、と差し出してくれるに違いないと。
「日本人ってね、悲しいこと、嬉しいことを即興で歌って自分の気持ちや心の揺れを音に託すことが出来たんだよ。私たちは、本当はとても豊かな音楽の世界を持っていたの」
その「とても豊かな世界」につながり始めた彼女は、まるで長い眠りから覚めたようでした。以来、彼女は「日本各地のすばらしい民謡と出会い続けている」と時折メールで知らせてくれました。楽しそうにうれしそうに。
一年の時を経て、心地よい、けれどエキサイティングな作品となって完成した「まほろうた」。このアルバムの中では、日々の暮らしから立ち上がった唄達のはちきれんばかりの生命力が、輝いています。私たち日本人が持っていたおおらかさが、繊細さが、香りたっています。
制作期間は「一年」だったかもしれません。けれど、それぞれの楽曲には、濱田、重信両氏がこれまで歩んできた人生の、そして、日本の里で野山で唄い愛し生きてきた、日本人達の長い長い人生の「時」がしっかりと刻みこまれています。
日本がつちかってきた豊かな音楽世界を、私たちは血で体で知っているのだと思います。
だから、ひえつき節を聞くと体が自然に揺れ出し、ホーハイ節の明るい節回しが何度も何度も頭を駆け巡り続け、竹田の子守唄のせつない力強さが涙を誘うのです。そして、元気になるのです。
私は、きっとこれからも繰り返し繰り返しこのCDを聴いてしまうでしょう。
私たちが持ち続けてきた悲しみやせつなさ、よろこび、そして神々に近かった頃の力までも思い出させてくれるから。何よりも、ただ素朴に気持ちいいから。
今回のアルバムで、私はひとつの発見をしました。歌手・浜田真実の声は、「癒す力」(もしかしたら呪術的と言っていいかもしれません)を持っているということです。それも強烈な力を。彼女の持つ天賦の才を十分に活かしきり、美しい日本の風や光や緑あふれる情景を音で織り上げた重信氏の音楽、プロデュースに敬意の拍手を送ります。
ライター・江藤 玲